Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “通 り 雨”


都内じゃあ桜も終わって、次はのツツジや新緑のシーズンへと移行中。
極端な寒暖の差に振り回されたのは、
冬がなかなか去らなかったからで。
いくら何でもそろそろ落ち着くだろうと、
行楽日和に恵まれたGWを伸び伸び過ごしたところへ襲い掛かったのが、
いきなりの冷たい雨だってのが うがってる。
この春はやっぱり気まぐれで、素直に去る気もないらしく。

 “…ったくよ。”

内側に青空のプリントされた濃紺の傘は、
実は父上が 新調しなと買ってくれたもの。
その支柱を肩先に乗っけ、時折くるくる回しつつ、
ついさっきから降り出した、
しのつく雨の中をとぽとぽと歩んでいる小さな背中は誰あらん、

 「…お、やっぱ 妖一じゃんか。」
 「そか、今日は雨だから徒歩か。」

大方、賊学大学部のご近所にある商店街まで、
昼食の買い出しにでも出ていたのだろ顔触れ、
アメフト部の馴染みが向こうから声を掛けて来たほどに、
ここいらが縄張りも同然の
“賊徒”という族のマスコットも兼任している小学生の坊や。
たかたったかと駆け寄って来た上背のあるお兄さんがたに追いつかれ、
あわわ あんな小さな子がからかわれるのは可哀想だと、
事情を知らない大人の皆様ならハッとするところだが、

 「ほれ、カバン貸せや。」
 「ん。」
 「今日は寒かっただろ。部室行ったら銀がコーヒー沸かしてっから。」
 「今 はやりのドリップ何たらってやつだぞ?」
 「へえ? 買ったんだ。」
 「いやいや、確か兄貴からぶん捕ったとかどうとか言ってたぞ。」

もう何年来かという蓄積のある“お仲間”同士であるかのような口利きで、
いやさ、ランドセルまで持たせてしまう辺りは、
お傍衆並みの至れり尽くせりで、
茶髪に鼻ピアスなどなどという、
いかにも恐持てのしそうないで立ちのお兄さんたちが、
いい子いい子と構いつける小さな坊やは、
実はアメフト部では主将以上に“怒らせると怖い”ことでも知られており。
とはいえ、もう随分な付き合いとなるせいか、
さすがに今ではいちいち怖がっての遠巻きになることも少なく、
ダチ扱いでの気さくなお付き合いを繰り広げておいでの模様。

 「…おう、来たか。」

講義室の入ってる学舎棟からやや離れた辺り、
クラブ長屋の外れ、渡り廊下の先に位置するアメフト部の部室まで、
春といえばのオープン戦、
川崎球場で行われた
アメフトのフェスティバルの話で盛り上がってたらしき面々の中、
窓辺から外を眺めていた主将殿が、こちらへ気づいて手を挙げれば、

 「 、………っ。」

傘が少しほど大きめだったからだろう、いつにも増して小さく見えた坊やに向けて、
そりゃああっけらかんと微笑ってくれた葉柱のお兄さんだったのが。
何へどう作用したものか、
いきなり連れを置いてくほどの加速をつけて駆け出した坊やであり。
ぬかるむほどじゃあなかったものの、
擦り切れかかりの細かな砂利が撒かれてあった足元は、
蹴立てられての じゃかざか・ざくざくという結構な音を立て。
開いたまんまの傘への風の抵抗のせいか、少々大変そうに駆けて来たのへ、
おやまあ、何だ何だと、席から立っての戸口へ向かった、
ラインマンにしちゃあ ひょろりとして見える葉柱のその姿を目がけ、

 「…ルイっ!」
 「おおおお、おっとぉ。」

さすがに傘は危ないと思ったか、直前でぽいと打ち捨てて。
最後の一歩を、とんっと地を蹴っての飛び掛かるよにして、
その懐ろまでの距離を一気に詰めて見せた坊やだったりし。
小さいと小さいと言ってはみても、
さすがに四年生ともなれば、
背丈だって大人の胸元辺りまでへは追いついており。
そんな大物を、しかも前触れなく飛び込んで来たのへ、
きっちり対処をし切れての、
危なげなくも受け止められるこちら様もまたおサスガで。

 “そらまあ、ラインバッカーさんですから。”

もっとごっついアメフトボウラーの突進を、
片っ端から撃破して制するのが役目のボジション。
こんなおチビさんにぶつかり負けしていては話にならぬ。
とはいえ、

 「どうしたよ、いきなり。」
 「………。」

お顔をお兄さんの懐ろへ埋めたまま、うんともすんとも応じない。
雨の日はお迎えは無しとしたのは随分前の話であり、
今更それへと不貞てる坊やでもなかろうし。
ランドセルを預かってたところから察するに、
途中から一緒になったらしい、買い出し部隊の数人へと視線を向ければ。
何もありゃしませんてと、ムキになってのぶんぶんと首を振るばかりだし。
何にか機嫌が傾いでいるのは確かだが、
はて何だろかと小首を傾げかかったところへと、

 「ほれほれ、出た出た。」
 「な…。何しやがる、メグっ。」

どんと背後から突き飛ばされて、
危うく つんのめり掛けたのを何とか持ちこたえれば、
肩越しに振り返った視野を塞いだのが、ばっさと放られた大判のバスタオル。

 「ウチらは勝手に筋トレ始めてっからさ。
  あんたはその子ととっくり話をしてからおいで。」

追い出したというよりも、
他の部員らを出すのに邪魔だと突き飛ばしただけだったようで。
まだ弁当中だった者もいたのを、
ほれほれ急ぎなと体育館のある方向へと追い立て始めた、
そんな女傑の勇姿へ向けて、

 「おい、メグ…。」

何を勝手なと抗議しかかった主将殿だったが。
呼びかけただけの段階でキリリと振り返って来たお姉様、
ネイルのつやも麗しい、きれいな指先の人差し指をこちらへ突きつけ、

 「い・い・ね?」

一字ずつにアクセントを置かれての念押しには、妙に迫力があったので、
ついついたじろいだ葉柱が おうと頷いて、さて。

  ―― で? どうした?
     …………うん。

一気にがらんとなった部室のベンチへ腰掛けて、
飲みかけだったか、少しほど温んでいたのが、
猫舌な坊やには丁度よかったエスプレッソを差し出して。
放られたバスタオルは毛布の代わり、
少し寒いからか小さな肩を縮めたのへと、
くるみ込むよに掛けてやる手際も慣れたもの。

  ―― あんな、あんな?

話すほどの何かがあったワケじゃあなくて。
でもね、あのね?
急に寒くなったせいなのかな、
何かあちこちムズムズって来ちゃってさ。

 何だそりゃ? 例えば どんなことがあった?

父ちゃんがサ、
やっぱ寒かったからか、やたら構え構えってくっついてくるのが、
ウザかったけど ちみっと楽しかったのへ。
後から“む〜ん”と複雑な想いになったのとか。

 うん。

セナが妙にくしゃみをしていて、
寒いのか?って聞いたらさ、
いつものことだのに、
凄げぇ嬉しそうに微笑って“ありがとねvv”って言われたのが、
何か、どう応じりゃいいのか判んねくて、
やっぱ“う〜ん”ってなったりとか。

 う、う〜ん。

小さなお指を ひとぉつふたぁつと、
指折りしいしい数え上げる、可愛らしいあれこれへ。
それこそ“どう応じてやれば”と、
そちらさんまでもが真面目に考え込んだらしい葉柱の、
精悍なお顔を、その懐ろに凭れつつ こそりと盗み見。
小さな白い両手に包み込んだマグマップの、
柔らかな温みへか、くすすと微笑った金髪の小悪魔坊や。
柄にないあれこれへ むずむずしちゃったのは嘘じゃあないけど、
そんなこんなもルイのお顔を見たら吹っ飛ぶと、
ちゃんと判っていたからね。
はてさて、一体どんな答えを出してくれるやら。
さあさあと遠い潮騒のように聞こえる静かな雨脚を数えつつ、
困ったように、でも間違いなく、
坊やのお悩みへ集中してくれているお兄さんなのへ。
それだけでも十分に満足しつつ、
大人しい構えにて いい子で待ってたヨウイチ坊やだったのでありましたvv






   〜Fine〜  10.05.12.


  *何かまたまた寒さがぶり返しましたね。
   こちらでは朝のうちにそっと通り雨が降った程度でしたが、
   東や北の方では結構な寒さになったとか。
   風邪なぞこじらせないように、どうかご自愛くださいませね?

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